STAKEHOLDER INTERVIEWS グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと 
今後日本と世界が進む未来

ACCESS

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近藤 哲生

国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表

“行政機関の能力、対応力を向上させ、全ての国民が医療にアクセスできるようにする必要があります。国の法制度や人材育成、医療インフラの整備といった側面を支援することも重要なUNDPの役割です。”


持続可能な開発目標(SDGs)

UNDPのビジョン、ミッション、役割、活動内容等についてお聞かせください。

国連開発計画(以下、UNDP)は、国連の中で開発を担う機関です。国連自体は第二次世界大戦が終わって安全保障のためにできました。その後、1960年代になって、新しい国が生まれてきた頃、開発が重要と認識されました。当時、アフリカなどで誕生した独立国のガバナンスの支援をするために、1966年にUNDPが設立されました。

それ以降、 UNDPは人間の安全保障を提唱し、また、2000年に採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成に向けた活動を中心に行ってきました。現在は、2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を目指し、2030年までに、低中所得国のガバナンスと持続可能な開発、特に貧困対策、防災や紛争対応に関しても強靭な国づくりを進めていくために活動しています。

UNDPは世界中の約170の国で活動を行っていますが、UNDPの事務所は約130の国にあります。各国のUNDPの代表は、その国の国連機関の調整役を務め、現地における調整官としての役割を担っています。国連常駐調整官という肩書で、その国の経済や社会を良い方向に変化させ、開発目標を成し遂げていくために現地政府と協力しながら活動しています。

UNDPは保健分野に関してこれまでに具体的にどのような活動を行ってこられたのでしょうか?

現在のUNDPの保健分野での取り組みの重要な柱の1つにHIVがあります。HIVのために社会で隔絶されてしまったり、不当な扱いを受けたり、偏見や差別を受けたりしている人たちに対する支援をしています。さらに、HIV感染者に対する投薬や予防措置をきちんと国民に伝えるための支援などが大きな割合を占めています。

他の事例としては、UNDPは西アフリカを中心に蔓延したエボラ熱への取り組みも行っています。エボラ出血熱流行時にはシエラレオネ、ギニア、リベリアなどの国々で感染が急速に拡大し、本当に国そのものが潰れそうになりました。そういう中で、当時エボラ出血熱対応のために働いていた5万人の作業員にきちんと給料が支払われるための制度を確保するなどして、危機を乗り切るための活動を実施しました。

また、UNDPは39か国で、エイズ・結核・マラリア対策を行う世界基金(グローバルファンド)の資金受け入れ責任機関として活動をしています。さらに、開発途上国の保健システムを支える、現地のNGOsの育成などの事業も展開しています。

“感染症と闘うために、日本が世界に誇る高い創薬技術を活用した医薬品開発を支援するGHITの役割は非常に重要です。”

UNDPは保健医療のアクセス向上にも取り組んでいます。具体的にどのような取り組みを行っていますか?

UNDPは国連機関ですので、国連が責任を担う3つのテーマ、人権、平和、開発の観点から人々の保健医療へのアクセスの保証を主眼に置いています。具体的には、患者が保健医療を適切な価格で、必要なときに、どこでも入手できるようにするなどです。他方、医療へのアクセスは人権で守られるべきことですので、人権確保という観点から、他の国際機関である世界保健機関(WHO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、世銀、多国間または二国間ドナー、民間企業、その他の開発パートナーなどと協力・連携し、人々が医療にアクセスできるように日々取り組んでいます。

医療へのアクセスは、本来であれば各国の行政機関がその責任を担います。しかし、国によっては、必ずしもそれを十分に遂行できる状態ではありません。行政機関の能力、対応力を向上させ、全ての国民が医療にアクセスできるようにする必要があります。国の法制度や人材育成、医療インフラの整備といった側面を支援することも重要なUNDPの役割です。

「アクセスを向上・改善」する上で、具体的にどのような課題があるのでしょうか?

今一番大きな課題は、特に貧困層の直面する医療の問題、貧しい人たちの病気です。マラリアや結核、十分な薬の手当ができない顧みられない熱帯病などです。しかし、これらの病気に対する既存の医薬品や医療機器、ワクチンは、製薬企業にとっても製品開発を行うインセンティブが少ないために、新たなイノベーションへの投資が見送られてきました。一方、低中所得国では、新しい医療技術ができたとしても、行政が国民の全医療をカバーするだけの能力や経験が乏しい傾向にあります。そういった国では、行政から医療現場まで、長期的な政策や法規制の整備、また人材育成、インフラ整備が求められます。

UNDPとGHITが連携することで、どのような相乗効果がありますか?

UNDPとGHITの連携において最も直接的な関わりが大きい分野は、結核、マラリア、そして顧みられない熱帯病です。特に、結核は960万人の患者が世界中にいる中で、2014年には150万人の方が対処する術なく亡くなっています。マラリアに至っては、33億人がマラリア蔓延地域に住んでいて、サブ・サハラアフリカで5歳以下の子どもの主な死因となっています。顧みられない熱帯病に関しては、世界中で17億人が少なくとも1つの熱帯病に対する治療が必要だと言われています。こういった感染症と闘うために、日本が世界に誇る高い創薬技術を活用した医薬品開発を支援するGHITの役割は非常に重要です。

近年、国境を越えた人々の往来がどんどん活発化し、人や動物などの接触が多くなっています。そのため、ジカ熱やエボラ出血熱などの新しい感染症が生じると、たちどころに感染が拡大するリスクが高まっています。日本は技術大国で、自動車やITの分野では世界各地で日本の技術が使われています。一方で、医薬品の創薬技術に関してはこれまで必ずしも十分な世界展開がなされてきませんでした。しかし、日本が持っている非常に高い創薬技術を、リスクの高まった世界で使えるようにしていくことで、人々の生活をより良い、安全なものにしていけると考えています。ただ、低中所得国の保健システムは未だ脆弱です。だからこそ、UNDPが低中所得国の保健システム強化を支援することで、GHITで新たに開発される薬を必要としている患者に提供できるようになる。これこそがUNDPとGHITが連携することの相乗効果だと思います。

“GHITが製品開発を支援する一方で、我々の強みは患者に医療技術を届けるシステムづくりです。”

UNDPはアクセス・デリバリー・パートナシップというプログラムを行っていますが、その背景や具体的な内容についてお聞かせください。

UNDPのHIV保健チームがこれまでに行ってきた中に、アクセス・デリバリー・パートナーシップ(ADP)という医薬品やワクチン、医療機器を含む新しい医療技術のアクセス向上と提供を支援するための取り組みがあります。これは従来、WHOの熱帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)と米国・シアトルのPATHという保健NGOと協力して始めたプログラムです。具体例で言うと、ガーナで国の保健医療政策をつくる支援をし、インドネシアでは、多剤耐性結核の新薬べダキリンの導入を支援しました。また、インドネシアの保健省が医薬品の薬価算定における費用対効果評価を効果的にできるよう、医療技術評価(HTA)の試験的導入の支援もしてきました。さらに、アフリカ全体で言えば、アフリカ連合(AU)における医療用品規制の雛形(AUモデル法)の策定を支援してきました。このAUモデル法は2016年にアフリカ連合加盟諸国によって採択されましたが、アフリカで安全性や効能、品質保証が担保された医薬品を患者に届けるための重要なガイダンスとなります。GHITが製品開発を支援する一方で、我々の強みは患者に医療技術を届けるシステムづくりです。

GHIT Fundの設立以降、UNDPは低中所得国の医療へのアクセスと供給を支援しています。低中所得国における保健技術や薬事行政の支援、医薬品が実際に患者さんに配られる際の安全性を担保するために、これまで複数国において、行政の能力強化をしてきました。例えば、2014年の統計をみると、タンザニアでは住血吸虫症のための予防化学療法が必要な1080万人のうち、27%しか政府の措置によって救済されていないという状況でした。GHITは現在、この疾患のために小児用プラジカンテル治療薬の製品開発を進めていますが、UNDPは保健システム強化を支援しており、両者の補完関係が非常にうまくいった例だと思っています。

GHIT Fundのこれまでの進捗、成果をどのようにご覧になっていらっしゃいますか?

GHITの存在自体が、G7サミットやアフリカ開発会議(TICAD)などの数々の国際会議の場で日本が繰り返し主張してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジに貢献する重要なプロジェクトです。政府や人々の関心を集めたことや製薬会社の協力を確保してきたことで、非常に重要な役割を果たしています。そして、GHITは、日本の技術が創薬に生かされるチャンスを増やした点でも非常に大きな成果を上げてきました。2017年1月に開催された世界経済フォーラムで発足が決まった、感染症予防のためのイノベーション連合(CEPI)があります。こういったものに日本政府が加わる決議をした背景には、GHITが行ってきた啓発活動や、行政機関、製薬会社、また政治家の方々への働きかけが大きな役割を果たしているのではないでしょうか。

“GHITの存在自体が、G7サミットやアフリカ開発会議(TICAD)などの数々の国際会議の場で日本が繰り返し主張してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジに貢献する重要なプロジェクトです。”

今後、将来を5年から10年というスパンで見たとき、アクセスをさらに向上・改善させるために、UNDPとGHIT、また他のステークホルダーはどのように関わることが求められるでしょうか?

持続可能な開発目標(SDGs)の目標3は「すべての人に健康と福祉を」という保健に関するものです。これを達成するためには各国がユニバーサル・ヘルス・カバレッジを自国の政策に取り入れていくことが重要です。健康と開発との関係を追求していくことがこれからの課題だと思います。

UNDPはSDGsの達成において民間企業の果たす役割が極めて重要だと認識しています。フィランソロピーやチャリティーを通じてSDGsに貢献している企業も多くあります。加えて、企業の本業でビジネスを通じてSDGsを達成することも非常に重要です。その意味でも、パブリック・プライベート・パートナーシップの模範的な例であるGHITが、さらに大きな成果を上げていくということが期待されています。

現在GHITが様々なパートナーと協力して開発している医薬品が、最終的に低中所得国に、安全かつ効率的に、手頃な価格で行き渡るように、引き続き、各国の行政の能力強化をしていくということが重要になると考えています。

近藤様はこれまで外務省やUNDPにおいて、国・地域、国際機関等、様々なパートナーとのお仕事をご経験されていらっしゃいます。「パートナーシップ」によってプロジェクトを成功に導くために大切なことは何でしょうか?また、なぜそのように思われますか?

政府、国連と両方での仕事経験を通じて、どちらの立場にあっても目指すものは1つで、国際社会の支援を待っている人たちに笑顔を戻すことが大きな目標だと思っています。政府の意思決定者、政治家、企業、大学、メディアの方々、市民の皆さんが、国際保健や国際協力の活動は現地で国際社会の支援を待っている人たちに支援を届ける仕事だということを常に心に留め、気持ちを1つに取り組んでいくことが、良いパートナーシップだと思っています。

本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。

略歴
近藤 哲生
国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
東京都立大学(現首都大学東京)卒。米国ジョーンズ国際大学で開発学修士号取得。1981年外務省に入省し、フランス、ザイール(現コンゴ民主共和国)、海洋法本部、国連代表部などで勤務。2001年にUNDP本部に出向し、マーク・マロック・ブラウン総裁(当時)特別顧問、国連世銀イラク支援信託基金ドナー委員会事務局長を務めた。2005年に外務省を退職し、UNDPバンコク地域本部スマトラ沖津波被害復興支援上級顧問、国連東チモール派遣団人道支援調整官を経て、2007年にUNDPコソボ事務所副代表、2010年UNDPチャド事務所長に就任。2014年1月より現職。東京大学大学院非常勤講師(国際保健政策学)。東京都出身。

STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES

FUNDING

01

山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02

ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03

スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY

01

デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02

中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03

北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT

01

クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02

畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03

ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS

01

ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02

近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03

矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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POLICY

01

マーク・ダイブル世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
前事務局長
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02

セス・バークレーGaviワクチンアライアンスCEO
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03

武見 敬三自由民主党参議院議員
国際保健医療戦略特命委員会委員長
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