STAKEHOLDER INTERVIEWS グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと 
今後日本と世界が進む未来

DISCOVERY

02

中山 讓治

第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO

“GHITは、資金を集めるだけではなく、日本企業の持つ科学や技術を活用するという発想であったので、当社の研究開発の創薬技術をうまく活かせるのではと思いました。”

GHIT Fundに参画した、その背景をお聞かせください。

当社は製薬企業としての特性を踏まえ、CSRあるいは社会貢献という形で、どのようにグローバルヘルスに貢献できるのか模索し、開発途上国での医薬品や医療へのアクセス向上に資するプロジェクトに取り組んできました。しかしながら、我々の事業の根幹でもある研究開発における創薬技術を活かしたグローバルヘルスへの貢献の機会は十分にはありませんでした。

GHITは、資金を集めるだけではなく、日本企業の持つ科学や技術を活用するという発想であったので、当社の研究開発の創薬技術をうまく活かせるのではと思いました。営利を追求する民間企業は、社会貢献だけを目的に採算度外視で、成功を保証されていない研究開発プロジェクトに長い年月と多くの資源を投入していくことは困難です。GHITと連携することで、当社が有する化合物をうまく開発過程に乗せることができる。そういった形で、我々が持つ様々な資源を活用し社会貢献をさらに幅広く行える点に賛同して、GHITに参画した次第です。そして今、抗マラリア薬の開発では、当社の化合物ライブラリーから特定されたヒット化合物が、次のステージの非臨床開発に順調に進んでいます。
> MMVとのプロジェクト

グローバルヘルスは御社の事業の中でどのように位置づけられているのでしょうか?

グローバルヘルスを疾患から見ると、HIV、結核、マラリアの三大疾病、そして顧みられない熱帯病が主な領域として捉えられます。当社は事業としての重点領域を「がん」と定め、疼痛、中枢神経系疾患、心不全・腎障害、希少疾患を次世代領域と位置付け、SOC(Standard of Careの略:現在の医学では最善とされ、広く用いられている治療法)を変革する先進的医薬品の創出を目指しています。同時にグローバルヘルスを製薬企業にとっての重要な使命と捉え、CSRの視点から医療アクセスの拡大に取り組んでいます。
> 医療アクセスの拡大

こうした当社にとっての事業とCSRの橋渡し役を担っているのがGHITです。当社の研究所には、これまでに創薬の過程で得られた、数多くの技術や知見が蓄積されています。事業としては活かされていない、社内で眠っている創薬技術などの資源が、GHITにより活性化され、その結果として医薬品を患者さんにお届けし、グローバルヘルスに貢献できれば、非常に有意義であると考えます。

“GHITに資金を出すだけではなく、自分たちの創薬技術や研究開発を通じてグローバルヘルスに貢献すること自体が、社員へのやる気になって戻ってきます。”

グローバルヘルスR&Dを通じて、御社が経験したこと、得たことはありますか?

当社の有する化合物ライブラリーは、ほとんどの化合物を自社で合成し、原料自体もストックしていることに強みがあります。それらを活用することで、GHITでの研究開発も早く進むものと期待しています。実際に、これまでいろいろ試みた結果、いくつか成功事例が出てきています。

グローバルヘルスへの取り組みはビジネスには直接結びつかなくとも、当社の創薬技術や研究開発能力がGHITの中で有効に活用され、薬に近づいていくという、そのこと自身は研究者の高いモチベーションに繋がり、非常にすばらしい成功体験になっていくと思います。研究者にとって大切なのはこういった成功体験を積むことであり、こういう経験をすることで成功のパターンや薬が生まれる道筋というのがよく見えてくるようにもなります。そのことが社員を強くしていきます。それはがんや次世代領域での創薬にも大いに役立つと考えています。

私は社員を動機づけるものが何なのか、これまでずっと探してきました。結論から言うと、一番わかりやすい例は、患者さんからの感謝の手紙、Thank You Letterです。我々は医薬品を提供していますので、例えば、「アルツハイマーの家族が救われました」、「完治はしていないけれど、生活がとても改善されました」とか。あるいは、受験生がインフルエンザで5日間熱が出るところを、熱が早く引いて「準備がよくできました」とか、様々な感謝の手紙が来ます。

そういった手紙を私はできる限り社員と共有しています。仕事で成功したらボーナスが上がるとかそういった動機づけもあると思いますが、実はやっぱりこういった患者さんからの御礼や、患者さんが救われたという話が社員にとって一番強い動機になります。それは非常に誇らしいことですし、製薬企業で仕事をしている人たちの大半はそういう人たちです。

先ほど申し上げたように、グローバルヘルスでの貢献による成功体験も大きな喜びにつながります。GHITに資金を出すだけではなく、自分たちの創薬技術や研究開発を通じてグローバルヘルスに貢献すること自体が、社員へのやる気になって戻ってきます。素晴らしいことであり、大事なことだと思います。

“GHITを中継点にし、様々な企業、研究機関等がそれぞれの独自の技術を利用しながら学び合い、全体が強くなっていく。そういった意味でも、GHITの意義は非常に大きいと思います。”

GHITが日本の製薬業界全体に与えた影響はなんでしょうか?

GHITには我々のような日本企業以外の研究機関なども製品開発に参画しています。マラリアの場合は、メディシンズ・フォー・マラリア・ベンチャー(Medicines for Malaria Venture、MMV)と連携することで、社外の人たちの考え方やノウハウをお互いに学ぶことができています。GHITを中継点にし、様々な企業、研究機関等がそれぞれの独自の技術を利用しながら学び合い、全体が強くなっていく。そういった意味でも、GHITの意義は非常に大きいと思います。

日本の製薬企業が創った医薬品は、世界レベルでも充分通用すると考えています。ただし、世界の中で日本の製薬企業はまだまだメジャー・プレイヤーにはなれていません。それは、今までよい技術を世界で活用するために必要なネットワークが十分に形成されていなかったからだと考えています。

日本人が強みとしている作り込みの技、匠(たくみ)と、GHITに象徴されるようなグローバルなアイデアやコンセプトが結びつくと素晴らしい成果が生まれると思います。この組み合わせは非常に強力であると感じています。今後もGHITに期待をしています。

また、GHITは単に民間企業や財団がやっているのではなく、日本政府も入っています。民間企業、財団、日本政府のコンビネーションは今までにないことです。日本が世界に対してどう貢献するかということが常に問われてきていますが、今後このモデルが具体的な貢献の形になり得るのではないかと思います。そういった意味でも、早く成果、つまり、GHITを通じて製品を世に送り出したいと願っています。

今後もグローバルヘルスR&Dを推進するために、GHITに求められることは何でしょうか?

新薬を生み出すためには、非常に長い期間を要します。GHITに対して、日本政府も長期的な視点で積極的に継続的に資金拠出する意向を示していますし、一旦始めたら安定的に支援していくことが大事です。我々、企業側としても、できる限り継続的に支援したいと考えています。

GHITの名前にもなっているように、まさにInnovative(革新的)な、Technology(技術)をより強化していくことが肝要です。Innovativeな、Technologyを通じて、日本の製薬企業や研究機関が積極的に貢献できれば、さらに力のある良い基金になっていく、成長していくと思います。

GHITを含めて業界全体として取り組むべきことは何でしょうか?

GHITは、今後、新薬を生み出して世界に貢献し続けていくことが重要です。また、日本の創薬技術や研究開発能力がいかに社会に貢献し、人の命を救っているかということを、世界中の人々に伝えていくことも大切なことだと思います。

製薬業界にいて、私が日々感じることがあります。それは、 保健医療、しいていうと製薬業界のあるべき姿が一般の国民に対して充分に伝わっていないのではないかということです。健康保険料や薬代の費用負担が上がる、下がるとか、そういったことは身近に感じると思いますが、製薬業界が医療や創薬を通じてどれほど大きな社会的な貢献ができるかとか、どんな可能性があるのかということは、普段はあまり意識していないと思います。

例えば、北里大学特別栄誉教授、大村智先生がノーベル賞を受賞されたことにより、大村先生の研究がいかに多くのアフリカの人を救ったかという功績を、みんな身近に感じたわけです。我々のような製薬企業が持つ創薬技術や研究開発能力がグローバルヘルスの分野に活用されて、日本が世界の人たちを救うことに貢献できるんだという、そんな力があるんだということを多くの方に知ってもらう、これは非常に重要なことだと思っています。

まだまだ病気に苦しむ患者さんが世界中に多くいて、その人たちを助けるためにはやはり新薬が必要です。そのために、どうやって新薬を作り出すのか、それをどうやって届けるのかを社会全体で考えていくことが肝要だと思います。

本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。

略歴
中山 讓治
第一三共株式会社代表取締役会長兼CEO
1976年大阪大学基礎工学部大学院生物工学科修士課程修了。1979年ノースウエスタン大学大学院にてMBAを取得後、サントリー株式会社に入社。2002年同社と第一製薬株式会社の共同出資により設立された第一サントリーファーマ株式会社の取締役社長就任。2006年第一製薬株式会社取締役経営企画部長を務める。2007年4月第一製薬株式会社と三共株式会社の経営統合により第一三共株式会社が設立され、同社執行役員欧米管理部長、その後、常務執行役員海外管理部長として欧米事業を統括。2010年4月同社副社長執行役員、日本カンパニープレジデントを経て、2010年6月代表取締役社長兼CEOに就任。2017年4月より現職。

STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES

FUNDING

01

山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02

ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03

スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY

01

デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02

中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03

北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT

01

クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02

畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03

ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS

01

ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02

近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03

矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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POLICY

01

マーク・ダイブル世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
前事務局長
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02

セス・バークレーGaviワクチンアライアンスCEO
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03

武見 敬三自由民主党参議院議員
国際保健医療戦略特命委員会委員長
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