STAKEHOLDER INTERVIEWS グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと 
今後日本と世界が進む未来

POLICY

02

セス・バークレー

GaviワクチンアライアンスCEO

“日本の製薬業界は、世界最貧国の人びとの命を救うためのワクチン生産において、重要な役割を果たす技術的な潜在能力があります。”

Gaviワクチンアライアンスとはどのような機関なのでしょうか?

Gaviワクチンアライアンス(以下、Gavi)は、スイスのジュネーブに本部のある官民連携パートナーシップによる組織です。低所得国における公平なワクチン使用を通して子どもの命を救い、人々の健康を守ることを目的としています。日本を含む各国政府、企業、慈善団体の資金提供により運営されています。

2000年の発足以来、Gaviは5億人以上の子どもたちに、死亡率の高い病気の感染を防ぐための予防接種を行ってきました。またワクチン製造業者との協力により、ワクチン価格を90%低下させることに成功しています。Gaviは現在、世界の最貧国約73か国で生活する子どものうち、約60%をカバーするワクチンを購入しています。

2016年から2020年までのGaviの新5か年計画では、今後も新しいワクチンの拡大を図る一方で、「第5の子ども(fifth child)」、言い換えると、まだ基本的なワクチン接種を受けていない世界の20%の子どもたちへのワクチン接種を目標にあげています。この「第5の子ども」の問題は、彼らが他の「4人の子ども(ワクチンを受けられている子ども)」の状況に追いつくまでには大きな隔たりがあることです。これらの子どもたちにワクチンを届けるためには、イノベーションやリアルタイム学習、それにフィードバックが必要です。この活動を通してGaviはユニバーサル・ヘルス・カバレッジの基礎を築いていきたいと考えています。

今日におけるワクチンの重要性を教えてください。また、ワクチンの開発・供給を阻む原因は何でしょうか?

人間と動物の移動傾向の変化、都市化の進行、巨大都市の人口密度、薬剤耐性の台頭、気候変動により、新しい深刻な病気が流行する可能性がより高くなっています。

このような脅威に立ち向かうには新たなワクチンは不可欠ですが、製薬業界にとって市場がほとんどない、つまりビジネスにならないような場合に問題が生じます。例えば、エボラ出血熱は、非常に貧しい、アフリカの田舎で数年毎に数十例の規模で発生してきました。この数十例のために、誰がワクチンの(開発・製造・流通などを含めて)支払いをするのでしょうか?

そこでGaviは、エボラ出血熱対策として、最終的に承認されたワクチンに関して、数百万ドルの支払いをワクチン製造業者に保証する「事前買取制度(Advance Purchase Commitment)」の実施に踏み出しました。

2017年1月にダボスで開催された世界経済フォーラムで、日本政府は国際的なイニシアチブ感染症流行対策イノベーション連合(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations: CEPI)を発足するため、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト等と手を組みました。これは次の世界的な感染症の流行(パンデミック)に備え、資金とノウハウを提供する非常に重要なパートナーシップです。

Gaviにおける、日本政府や製薬会社の役割について教えてください。

Gaviにとって日本は財政的にも政治的にも非常に重要な国です。日本は2011年からGaviへの支援を開始し、2011年から2015年までに5370万ドルの資金を拠出しています。2015年に開催されたGaviの増資会合では、日本はこれまでの2倍となる約1億ドルの拠出を表明しました。また、日本政府は、G7首脳国宣言においても、Gaviについて言及するなど政治的にも強力な支援を提供しています。

日本の製薬業界は、世界最貧国の人びとの命を救うためのワクチン生産において、重要な役割を果たす技術的な潜在能力があります。この力を現実のものとするため、今後数年間Gaviは日本の製薬業界と緊密な協力体制を取っていきます。Gaviが日本企業に期待しているのはこれだけではありません。日本の民間セクターには、ワクチン開発だけではなく、シリンジなどの医療機器や、コールドチェーン(ワクチンの冷蔵流通システム)の製造等において、大きな役割を果たすことができると考えています。こうした活動もまた、Gaviの活動を支えることができるのです。

過去10年間にグローバルヘルスの分野で日本が果たしてきた役割をどのように見ていらっしゃいますか?

日本はグローバルヘルス・セキュリティおよび感染症に集中して取り組むことで、国際的にも非常に重要な役割を果たしてきました。これは、2000年の九州沖縄G8サミットで、当時の森喜朗首相が世界エイズ・結核・マラリア対策基金への資金提供を含む感染症サポートの後押しを表明したことが始まりです。その後も、日本はエボラ出血熱との闘いにも貢献し、また、Gaviへの継続的な資金拠出を行うなど、リーダーシップを発揮し続けています。

日本のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への貢献も重要です。ワクチン接種拡大における最大の課題の一つは、世界中のあらゆる人々にワクチンを安全かつ確実に届けることです。当然のことですが、ワクチンへのアクセスのない人は、往々にして一般的な保健サービスへアクセスすることはできない人々です。したがって、ワクチンを届けるための活動や、日本がユニバーサル・ヘルス・カバレッジを優先させることが、こういった人たちに医療を提供するための鍵になります。

“GHITの設立以降、患者のニーズに応えるために、日本の卓越した技術とイノベーションが海外のパートナーと結びつきました。”

日本のグローバルヘルスにおける役割に、GHITはどのような影響を与えたと思いますか?

日本は多くのさまざまな分野でイノベーションを起こしてきました。GHITの設立以降、患者のニーズに応えるために、日本の卓越した技術とイノベーションが海外のパートナーと結びつきました。これにより新たなパートナーシップが生まれ、世界が大きな関心を寄せている重要な研究開発が実現しています。

グローバルヘルスR&Dのパートナーシップが成功するために最も重要なことは何でしょうか?

私は、前職では、国際エイズワクチン推進構想(International AIDS Vaccine Initiative、IAVI)を運営していました。私たちは日本の科学者と協働しHIVのワクチン開発に向けた研究を行っていました。言語の壁などの問題もありましたが、開発に向けてグループ内で価値観と関心を共有することで、素晴らしいパートナーシップを築くことができました。このように共通の価値観をパートナーと構築することができれば、様々な障壁を乗り越えられると考えています。様々な組織や機関が一つの目標に向かって価値観を共有することができれば、日本、特に日本企業によるグローバルヘルス研究開発分野への貢献がこれまで以上に大きくなると考えています。

“日本が今後も発展途上国で使用できる技術を提供し、画期的な技術貢献を続けてくれると期待しています。”

今後5年から10年を考えた場合、グローバルヘルスにおける日本の役割は何だと思いますか?

日本は保健分野において並外れた実績があります。世界は日本から多くのことを学ぶことができるはずです。例えば、日本の平均寿命は世界でもトップクラスです。世界は今後人口動態が大きく変化していくため、日本は重要な案内役としての役割を果たすはずです。日本の教訓と考え方を他国の事情に合わせて解釈し、適応させていくことが今後の課題となるでしょう。

日本はまた、世界中の患者向けに質の高い技術による製品やサービスを提供してきました。私は、日本が今後も発展途上国で使用できる技術を提供し、画期的な技術貢献を続けてくれると期待しています。

本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。

略歴
セス・バークレー
GaviワクチンアライアンスCEO
ワクチン開発に関する初の官民パートナーシップである国際エイズワクチン推進構想(International AIDS Vaccine Initiative、IAVI)を設立し、15年間にわたって会長およびCEOを務める。同氏のリーダーシップのもとIAVIは、産業界、学術界、途上国の科学者と協力しながら、世界中でワクチンの研究開発を行った。IAVI設立前は、ロックフェラー財団の健康科学部門(Health Sciences Division)に在籍。また、米国感染症センター(Center for Infectious Diseases of the US)、アメリカ疾病管理予防センター (CDC)、マサチューセッツ州公衆衛生省に勤務し、 カーター・センターではウガンダ保健省の疫学者に任命された。ウガンダの国家HIV血清調査(national HIV sero-survey)で重要な役割を果たし、 国家エイズ管理プログラム(National AIDS Control Program)の開発にも尽力。TIME紙「世界で最も影響力のある100人」などにも選出される。(アジア、アフリカ、ラテンアメリカの50を超える国々でコンサルタントとしての勤務経験を有する。 ギリアド・サイエンシズ、ニューヨーク科学アカデミー、Acumen ファンドを始めとする数多くの国際的な運営員会、法人組織、非営利委員会の一員としても活躍。)

STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES

FUNDING

01

山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02

ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03

スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY

01

デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02

中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03

北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT

01

クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02

畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03

ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS

01

ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02

近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03

矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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POLICY

01

マーク・ダイブル世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
前事務局長
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02

セス・バークレーGaviワクチンアライアンスCEO
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03

武見 敬三自由民主党参議院議員
国際保健医療戦略特命委員会委員長
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